2023.01.26
M&Aコラム
初めての試みならば知っておきたい! 会社を買収する仕組みと経営者が注意しておくべき事柄とは!?
現在の日本は本格的に少子高齢化が進んでおり、社会福祉や医療など様々な社会問題を引き起こしています。
その弊害は企業経営に対しても及んでいます。
それが”後継者不在”という企業経営にとっては致命的な問題です。
「技術は素晴らしいのに後継者がいない」
といった残念な理由で廃業に追い込まれる会社は少なくありません。
そんな会社の危機を救う解決策の一つが近年増加傾向にある”会社の合併や売却”です。
廃業を免れて事業を継続できますし、共に働いてきた大切な社員さんの生活を守ることができます。
一方で、買い手になることで
「技術を持った会社を買収することで事業拡大に費やすお金や時間をカットしたい」
という企業もたくさんあります。
売り手側と買い手側の需要と供給がうまくマッチすれば、お互いにwin-winな関係を築くことができます。
この現代社会において会社の買収は決して他人事ではありません。
経営者の方は誰もが頭に置いておきたい戦略と言えます。
実際日本でもM&A件数は2012年からコロナ前の2019年までずっと上昇傾向にあります。
コロナ禍で一度減少したものの、2022年においては1年で4000件を超えるM&A事例がありました※。
(※ 出典:日経新聞)
これから新規事業を始めて会社の売上を伸ばしていきたいという経営者にとって買収に関する知識は必要不可欠です。
本記事をぜひともご参考ください。
1.会社を買収する目的
闇雲に買収を行えばいいというわけではありません。
目的を持った行動が大切になります。
買収を行う目的は主に以下の5つです。
- 新規事業におけるノウハウの獲得
- 人材確保を目的としたM&A
- コスト削減
- 社員のモチベーションが上がり、生産性が向上する
- リスク分散
- 資金調達力の上昇
- ライバル企業の買収
それぞれ詳しく見ていきましょう。
① 新規事業におけるノウハウの獲得
新規事業を始めるためには当然新しい技術を自社にインストールする必要があります。
しかし、ノウハウ獲得は案外簡単には進みません。
まず、技術を持った人材を探して引き入れるのは骨の折れる作業です。
技術を持った方のほとんどが既に所属している会社で重宝されていますからね。
また、自社のなかでノウハウを築きあげようとすると、当然時間がかかります。
もし既に技術を持った会社と交渉して買収が可能になれば、0からノウハウを築き上げる必要がなくすぐに事業を軌道に乗せることが可能となります。
②人材確保を目的としたM&A
少子高齢化の影響は”労働力人口の減少”にも繋がっています。
さらに、大企業における人件費引き上げの動きや円安による働き場所を海外に変える動きも見られます。
中小企業にとって人材確保が難しい時代になっていますが、その解決策の一つとして”M&A”は非常に有効な手段です。
③ 新規事業におけるコスト削減
本来、新規事業を始める場合多くのコストがかかってしまうのが悩みどころです。
設備コスト・仕入れコスト・物流コスト・製造コスト・研究開発コスト・・・
投資すべきものがあまりに多く、会社の財務事情がどうしても心配になってしまいます。
しかし、買収が実現すれば相手側の資源を活用することが可能なので大幅なコストカットが可能となります。
費用面でのコストカットだけでなく、時間のコストカットを実現できるのは非常に魅力的と言えます。
④ 社員のモチベーションが上がり、生産性が向上する
買収により職場環境がより改善されると、社員のモチベーションアップに繋がり業務効率が上がることも考えられます。
残業もこなしながら長時間頑張っているのに会社の利益がいまいち上がらない。
なかなか給料も増えていかない。
そういった状況が続いてしまえば、社員のモチベーションも下がっていくのは当然のことです。
しかし、環境の変化により社員の心も変化していきます。
会社買収による設備や技術への投資を行って環境を整えることは社員のモチベーション、さらには事業発展に大いに役立つと考えられます。
⑤ リスク分散
現代社会において企業の多角化は成長戦略の大きな柱と言えます。
買収により事業を複数持つことで、廃業のリスクの分散に繋がります。
昨今のテクノロジーの発展により、新規事業への参入は昔ほどハードルは高くありません。
社会全体で事業の多角化が進んでいます。
また、自社の保有資源をより有効活用できる事業、売り手企業が見つかれば生産効率性もアップしていくでしょう。
⑥ 資金調達力の上昇
資金に余裕のある会社同士が合併する場合ならではの大きなメリットもあります。
それが資金調達力の上昇です。
銀行から低金利で資金調達できたり調達額の上昇が可能になるのです。
より一層の事業発展が見込まれるでしょう。
⑦ ライバル企業の買収
ライバル企業の存在で自社の市場が脅かされる。
会社の経営を進めているとそんな心配が生まれることが必ずあります。
そんな状況においても買収という選択は非常に役立ちます。
お互いの特性を活かしながらより安定的に事業を伸ばしていくことが可能になるからです。
ライバル企業であっても”完全無欠で好調な企業”とは限りません。
必ず抱えている問題点があるものです。
問題点を補える力が自社にあった場合は行動を起こしてもいいでしょう。
2.会社の買収が増加している背景
近年、会社の買収件数が増加傾向にあるのですが、そもそもこの不景気の時代にコストのかかる買収を実施する理由は一体何でしょうか?
答えはこの3つです。
- 経営者の高齢化
- 人材不足の企業の増加
- 都市部への人口集中
①経営者の高齢化
中小企業庁が発表したデータによると現在の”企業経営者の平均年齢”は65歳を超えています。
さらに、70代や80代の割合もさらに増えている現状があります。
当然経営の仕事は激務なため、高齢の方にとって非常に負担が大きくなってしまいます。
「後継者に立場を譲りたくても後継者がいない」
よって、経営者の高齢化が進んでしまうわけです。
こうなると、会社を売却することで従業員を救うしかありません。
今の日本は「会社を売却したい」という需要が増えており、自ずと”買収件数”も増えているのです。
②人材不足の企業の増加
日本の出生数や合計特殊出生率は年々下降傾向にあり、本格的な少子高齢化社会に入っています。
若い人口が少ないということは元気な労働者も減少していることを意味します。
よって企業は数少ない若い労働者を取り合っているという現状があります。
特に中小企業にとっては、欲しい優秀な人材が大企業に流れてしまうことが多く、悩みの種となっています。
この問題の解決策こそが自社の売却です。
大手企業の傘下に入ることになれば社会的信用やブランドを活かした採用活動ができるため、優秀な若い人材を獲得しやすくなります。
もちろん、買い手側である大手企業にもメリットがあります。
事業拡大のチャンスにもなりますし、人手不足の解消にもなります。
需要と供給が一致しやすいため、今後も会社の買収件数は増えていくと考えられます。
③都市部への人口集中
平成27年時点で人口20万人以上の都市に居住する人口の割合は50%を超えています。
引用:https://www.soumu.go.jp/main_content/000452793.pdf
特に若者の間では「生活や移動のしやすさ」「商業施設の多さ」を理由に都市部で暮らしたいという方が多くなっています。
地方に会社を構える経営者にとっては大きな痛手となります。
せっかく子供や親族に継いでもらおうと思っても、後継者候補が上京してしまっている。
今の日本では当たり前の現象になっているのです。
会社を売却することで現在の従業員や取引先に迷惑をかけずに生活を守ることができます。
地方の企業において会社売却の手段を選ぶ件数が年々増えていくと考えられるでしょう。
3.会社買収の成功例
第3章では、日本企業における会社買収の事例を紹介していきます。
①”web系システムやアプリ開発を主力としている会社A”が”VRやARの開発を行っている会社B”を買収
→会社Bは新型コロナウイルスによる経営の先行き不安から会社売却を考えていました。
一方で、会社Aや地方への事業拡大と優秀なエンジニアの獲得を課題としていました。
両者の需要と供給が一致したため、株式譲渡という形で会社Aは会社Bを売却。
現在は連携体制を整えて会社を成長させています。
②”人材サービス業を手掛ける会社C”が”施設の常駐警備事業を受ける会社D”を買収
→会社Dは経営者の高齢化により会社売却を考えていました。
一方で、会社Cは自社の求人サイトに登録している高齢人材の仕事先を確保したいという課題がありました。
両者の需要と供給が一致したため、株式譲渡という形で会社Cは会社Dを売却。
両社の経営者にとっても、仕事先を求めていた人材にとってもメリットのあるものとなりました。
③”織物メーカーである会社E”が”ネイルチップの販売サイトを運営する会社F”を買収
→会社Fは経営方針の転換から、事業譲渡を考えていました。
一方で、会社Eはデジタルマーケティングにおけるシナジー効果を生み出すため会社Fの事業に注目しました。
事業譲渡という形で会社Eは会社Fを買収し、互いに協力関係を築くことで両社はさらなる発展を遂げました。
④”カレーの商品開発・販売・店舗運営を行う会社G”が”本場インド料理店を運営する会社H”を買収
→会社Hは利益がなかなか伸びず店舗経営に困っていました。
一方で、会社Gはハラール料理を作れる工場が欲しいと思っていました。
両社の需要と供給が一致していたため、事業譲渡という形で会社Gは会社Hを買収することになりました。
会社Hは会社Gの販路を利用して自社ブランドの商品をPRすることが可能になり、名前を広めることに成功しました。
会社Gも新メニューの開発・販売、新ブランドの確立に成功しています。
⑤”海上・航空輸送・通関ロジスティックスサービスを展開する会社I”が”運送業を営む会社J”を買収
→会社Jの経営状態は良好だったのですが、社長が70歳という高齢で後継者も不在でした。
一方で、会社Iはずっと買収先を探している状態でした。
両社はうまくマッチングしたため、株式譲渡という形で会社Iは会社Jを買収することになりました。
⑥”金属プレス加工メーカーである会社K”が”同じく金属プレス加工メーカーである会社L”を買収
→会社Lは社長が高齢なため引退を考えていたのですが、後継者不在という問題を抱えていました。
一方で、会社Kは事業発展の策の一つとして会社の買収を考えていました。
両社の思惑が合致したため、株式譲渡という形で会社Kが会社Lを買収しました。
会社Lの取引先や従業員に迷惑をかけないようにするための最善の策だったと言えますし、会社Kも会社Lのノウハウを取り入れて発展していきました。
⑦”建設関連事業を営む会社M”が”同じく建設関連事業を営む会社N”を買収
→会社Nは代表が高齢なため廃業を考えていましたが、事業引継ぎ支援センターで事業承継を勧められていました。
一方で、会社Mは事業拡大を図っていたものの人材不足やノウハウ不足という課題を抱えていました。
公的機関の支援もあり、事業譲渡という形で会社Mは会社Nを買収することになりました。
4.買収を考える時に注意したい事柄4選
前章では成功例を紹介してきましたが、思わぬリスクによってむしろ業績が悪化してしまったという例も少なくありません。
そこで、買収による事業活性化を検討している経営者の方が特に注意したい事柄を4つ紹介します。
以下の通りです。
↓
- 経営戦略を明確にする
- 徹底的なデューデリジェンスを行う
- 計画的な経営統合(PMI)を行う
- 外部の専門家の力を活用する
それぞれ見ていきましょう。
①経営戦略を明確にする
会社の買収には経営戦略が必須です。
第二章にも記載していますが、あくまで自社の発展に繋がるような結果にならないといけません。
決して買収自体を目的にしてはいけません。
買収する企業の業種・業態・会社規模・買収予算、買収資金の調達方法などを明確にしたうえで計画的に進めることが大切です。
②徹底的なデューデリジェンスを行う
デューデリジェンスには、事業・財務・法務・税務・IT・人事など様々な種類があるという話をさせていただきました。
それぞれの分野の専門家などに依頼することが重要です。
専門的見地からの丁寧なデューデリジェンスを行わなければ意味がありません。
また一般的なデューデリジェンスと共に、探偵事務所などを活用した社長や役員の素性や経歴、犯罪歴、過去の行政処分歴、反社会的勢力との繋がりなども含めたあらゆるリスクを洗い出して事前調査をしておくことも必要になるケースがあります。
買収先企業のことを詳細に多角的に理解し、リスクや負債を調べられるかが鍵です。
この事前調査が雑であると、必ず経営統合後に問題が浮き彫りになって経営が苦しくなります。
最後に、デューデリジェンスで洗い出されたリスクに対してどう処理すべきかを適切に判断していきましょう。
事前に対処法を想定しておくことも必要になります。
なお、想定外の大きなリスクが発見された場合には、無理に買収を進めるのではなく中止を含めた経営判断を行いましょう。
大切な会社を守るためです。
③計画的な経営統合(PMI)を行う
経営統合はやるべきことも多く時間がかかるものです。
計画性のなさが致命的な損失を招きかねません。
さらに忘れてはいけないのが、社風・企業文化、社内規則、人事・労務などのすり合わせです。
現場の社員がついていけなくなるようなことにならないよう注意する必要があります。
社員のモチベーションは売上にもつながるので注意しましょう。
④事前に丁寧なリサーチをした後、外部の専門家の力を借りる
買収には「企業価値の評価、買収価格の決定、デューデリジェンスなど専門家の力を借りるべきタスクが複数存在します。
また、買収先企業が自社と異なる業種であれば、その業界に関する専門知識も必要となります。
少しでも費用コストをカットしたいがあまり、自社スタッフや当事者間のみで進めてしまうと、思わぬトラブルが生じてしまいます。
企業買収のそれぞれのプロセスにふさわしい専門家の力を活用することによって企業買収の成功率を高めることができるでしょう。
そして、そんな大切な仕事だからこそ委託先をきちんと見極める必要があります。
情報収集を丁寧に重ねて見極めていきましょう。
最後に
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