医療業界のM&Aの特徴、特殊な手法とは？

2024.08.17

M&Aコラム

日本は、病床数が世界的に見ても多い国です。医療費抑制策として病床数を減らす国が多いのに対し、他国と比べて入院期間が長い日本では、病床数を多くすることで医療の充実を図ってきました。ところが今、病院数や病床数が減少しつつあります。ここでは、医療業界のM&Aの特徴についてご紹介します。

■医療業界におけるM&Aの特徴

近年、医療・介護業界におけるM&A案件の数が増加しています。病院やクリニックが実施するM&Aは、企業間で行われるM&Aとは異なる特徴があります。

・病院の経営難にM&Aを活用

一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本医療法人協会が実施した「2023年度病院経営定期調査」によると、2023年度には6割以上もの病院・クリニックが赤字経営の状態で、赤字病院の割合は2022年度より大幅に増加しました。病院経営と聞くと、国からの補助金があるため「安泰」のイメージが強いですが、実際には経営難に陥っている病院の数は多いと言えます。医療・設備コストの増加をはじめ、人件費の高騰、国の医療費抑制政策による診療報酬のマイナス改定、薬価基準の引き下げが行われた結果、病院の経営状況は悪化しています。さらに、新型コロナウィルスによるパンデミックは、病院の経営悪化に拍車をかけました。医療の質を保つためには、まず経営が安定していなければなりません。経営難を脱し、日本の高い医療水準を維持するために積極的にM&Aを実施し、病院をグループ化する動きが加速しています。

・M&Aをするメリット

病院・クリニックを取り巻く環境は、決して良いとは言えません。医局制度の崩壊や労働環境の悪化による医師不足や看護師不足、後継者問題は言わずもがな、経営難で施設の老朽化が進んでも修繕費用が捻出できない、新たな設備投資を行えない病院もあります。それらの問題を解決するために、M&Aを選ぶ病院・クリニックは少なくありません。医療業界におけるM&Aは、譲渡側はもちろん、譲受側にもメリットがあります。譲渡側においては、後継者問題を解決し、地域の救急ニーズに応えて患者を守り、医療機関関係者の雇用を確保できます。地域医療を守るためにも、病院の存続は重要です。譲受側のメリットとしては、患者の受け入れ数増加、地域拡大を目指せます。また、M&Aを行うことで、新たに病院やクリニックを開設するよりもはるかに効率的に新規参入を果たすことが可能です。

参照： https://ajhc.or.jp/siryo/20230915report.pdf

・出資持分ありとなしで異なる手法

株式を発行して資金を集め、経営を行う株式会社。株式会社は出資者への配当が認められていますが、非営利性を保たなければならない医療法人では株式の発行は禁止されています。そのため、医療業界におけるM&Aでは、企業間のM&Aで行われる株式譲渡などの一般的な手法とは異なる手法が用いられます。病院・クリニックのM&Aでは、合併、出資持分譲渡、事業譲渡が主な手法です。合併と事業譲渡の両手法は、行政に許可を求める必要があります。一方、出資持分譲渡については、行政の申請許可を受ける必要がなく、短期間でM&Aを完了することが可能です。M&Aを行うと、譲受側は資産や許認可、雇用契約やリース契約等を引き継ぐほか、負債も引き継ぐことになります。ちなみに、出資持分とは財産権のことで、出資者が医療法人に対して有する持分割合を指します。2007年の医療法改正により、現在は出資持分のある医療法人を新しく設立することはできません。そのため、出資持分がない医療法人は、出資持分譲渡によるM&Aを行うことは不可能です。出資持分がない医療法人のM&Aでは、買い手である譲受側が役員となり、譲渡側に退職金を支払う方法が用いられます。医療法人とは違い、個人病院は出資持分はありませんから、M&Aを実施する際には、事業譲渡の手法を用います。

■まとめ

他業界と同じく、事業規模の拡大や後継者問題の解決、人材確保、経営状況の改善を目的とした医療業界のM&A件数は、今後も増えていくと考えられます。医療業界のM&Aは、企業間のM&Aとは異なる点も多く、医療法や各種法律についての知識を求められる場合も。M&Aで最善の結果を出すためにも、専門家を交えたデューデリジェンスを行うこと、早い段階から準備を進めることが重要です。