売り手と買い手の視点

2023.06.22

M&Aコラム

統合・買収（Mergers & Acquisitions, M&A）は、企業の成長戦略の一部として、または事業再編のために実施されます。この戦略的な決定は、企業の長期的な成功に対して大きな影響を与えることができます。M&Aは、売り手と買い手双方が利益を得ることを目指していますが、その目的とメリットはそれぞれ異なります

売り手から見たM&Aの目的とメリット

売り手から見たM&Aの主な目的は、「事業承継」「事業成長」「事業改革」であり、以下のようなメリットが期待できます。

事業の成長と発展

売り手と買い手が、双方の強み・弱みを補完し、売上向上やコスト削減等のシナジー（相乗効果）を発揮することで、事業の成長と発展が期待できます。これは、新たな市場への進出や、新たな技術や能力の獲得など、事業の競争力を向上させる機会を提供します。

後継者問題の解決

売り手の経営陣が高齢化や後継者問題に直面している場合、買い手の経営陣が後継者として就任することにより、企業の存続を図ることができます。これは、経営の連続性を保ち、企業の価値を維持するために重要です。

従業員の雇用継続

売り手は、M&Aにより会社や事業を維持・発展させることにより、従業員の雇用を継続させることができます。これは、従業員の安定した雇用を保証し、社会的な安定を促進するという、企業の社会的責任を果たす一方で、雇用の継続を通じて経験とスキルを保持することで、企業の競争力を維持します。

M&Aのメリットと目的創業者利益の確保

未上場株式は換金が難しい一方で、相続時に相続税が課税されるため、多くの未上場企業において相続税の資金準備が課題となっています。M&Aによる株式譲渡は、この課題に対する一つの解決策を提供します。売り手であるオーナーは、株式を譲渡することで資産を現金化することが可能となります。近年では、50代で株式を譲渡した後、新たな事業を始める「余裕あるセカンドライフ」を送る事例が増えています。

事業の再生

連続赤字や債務超過などの困難な状況にある企業にとって、M&Aは事業の再生を目指すための有力な手段です。売り手の企業がスポンサー企業とのM&Aを通じて、財務上の健全性を回復し、事業の再建を目指すことが可能となります。

ノンコア事業の売却による事業改革

企業が成長し、事業領域が拡大すると、一部の事業は本業から逸脱した「ノンコア事業」となることがあります。これらの事業は企業の総合的なパフォーマンスを下げる可能性があります。そこで、企業はノンコア事業を売却し、経営資源を本業に集中させることを選択することがあります。M&Aは、このような事業改革を実現するための有効な手段となります。

これらの観点から見ると、M&Aは売り手にとっても多くのメリットを提供します。これは、企業の存続や発展にとって重要な手段となり得ることを示しています。

M&Aのメリットと目的

買い手にとってのM&Aのメリットと目的は、主にシナジー効果の実現にあります。シナジー効果とは、両社が結びつくことで生じる付加的な価値のことを指します。これには以下の二つの主な形態があります。

売上シナジー

売上シナジーは、販売チャネル、営業ノウハウ、ブランド力や知名度、開発力、市場シェアの向上による価格支配力の獲得を目指します。これらは、企業が自社の製品やサービスをより多くの顧客に販売するための戦略的な手段であり、M&Aを通じて新たな市場へのアクセスを得ることができます。

コストシナジー

コストシナジーは、経済の規模や範囲、そして企業間の統合により、一部のコストを削減することを目指します。具体的には、仕入れコスト、販売コスト、物流コスト、製造コストなどの削減が考えられます。これにより、企業はより効率的に運営することが可能となり、収益性を向上させることができます。

これらの観点から見ると、M&Aは買い手にとっても多くのメリットを提供します。これは、企業の成長や効率性の向上にとって重要な手段となり得ることを示しています。

M&Aの重要性

M&Aは、企業が成長し、新たな市場を開拓し、事業の効率性を高めるための強力な手段であり、また、企業の存続や再生を可能にする重要な道具です。売り手にとっては、事業の成長と発展、後継者問題の解決、従業員の雇用の継続、個人保証の解除、創業者利益の確保、事業の再生、そしてノンコア事業の売却など、M&Aが提供するメリットは多岐にわたります。

一方、買い手にとっては、M&Aはシナジー効果を生む機会を提供し、それにより売上の増加やコスト削減を達成することが可能となります。

しかし、M&Aはその成功が保証されるものではありません。成功するためには、適切なターゲットの選定、適切な価格の決定、効果的な統合戦略の立案、そして新たな組織文化の形成など、多くの要素が必要となります。これらの要素を適切に管理することができれば、M&Aは企業にとって強力な戦略的ツールとなり得ます。

さらに、M&Aは企業の規模や業種に関係なく適用可能です。大企業だけでなく、中小企業でもM&Aを利用して事業の拡大や効率化を図ることが可能です。このような観点から、M&Aは現代のビジネス環境において重要な戦略的選択肢であると言えるでしょう。

結論として、M&Aは企業の成長と繁栄を支える重要な戦略です。それは売り手と買い手双方にとって多くの利点を提供し、事業の拡大、効率化、そして新たな機会の創出に寄与します。しかし、その成功は戦略的な計画と適切な管理に依存しています。そのため、企業がM&Aを追求する際は、その全ての側面を慎重に考慮し、適切なプロフェッショナルの助けを求めることが重要であると言えます。